少し古びて疲れて寝息をたてゝいる男の

着古した背広のやうな

擦り切れた畳の端のやうな

でもどんなあなたでもむかし

恋焦がれたことを恋焦がれて

かうしてひとつ屋根の下に

あなたに静かにお仕え申して

時の間に指を突いてお辞儀をします

お茶でもお運びしますか


ただよいながら静かに見つめている

歳月を揺すぶり返すのだ

もつれ合って、

求めあって、

睦びあって崩れをれて

いまさら悔悛を説かれても

いつもそれも色違ひの歯ブラシのやうに寄り添って

とてもつまらない時でも、

とても楽しい時でも、

もう知らんふりは出来ない


ベッドのまわりぢゅうに流れる時の歳月の音に驚き

今も

「いったい自分を世界のどこの場所に置けばいいのか

わたしはいまだにわからない」とわたしは

長いこと連れ添ったから云ふが

それこそ草臥れ果てゝ

二度ともう

そのまゝ起きないのではないかとさへあなたは


倉石智證