われわれは、そしてすぐに忘れる
小さなぼくは日々成長し、変わっていく
靴を買い替えなくては
帽子がもう入らなくなった
指がいろんなものを掴もうとする
眼が別なものを探しはじめる
お母さんに叱られるわけだ
そして、われわれはすぐに忘れる
顔の右半分はものすごく日が照ってゐて
いや、顔の左半分は夜の真っ暗闇である
軽挙妄動を
戦争があったことを忘れ
平和だったことを忘れ
前提を忘れ
演繹と、帰納と、弁証法を忘れ
constitutionの意味を忘れ
ワイマールを忘れ
そしてすぐにものを売りに行かうとする
小さなぼくは日々成長し、変わっていく
教室から外に出て行かうとする
壜の中に指を突っ込んでジャムを舐める
花を毟る
鳥を撃つ
ろくなもんじゃあない
すぐに忘れる
それが申し分のないわれわれなんだ
お母さんはスリッパを持って追いかけてくる
小さなぼくは日々に大きくなって
靴も入らなくなって
頭に入らなくなって
ろくなもんじゃあない
すぐに忘れる
お母さんに叱られるわけだ
倉石智證