私はそれをとても気にする
きみは右の方を歩いて行ったのではないか
私はそれをとても気にしてゐる
きみは左手でスプーンを使っていた
キャベツは真ん中にある
トマトはもう少し左手にあったらうか
ところで、スープは満足がいったかい
安息日に添って
左脚を引きずって行く
それは前からの約束である
彼は決していい人ではなかったから
おほ方の女性がさうであるやうに
彼女も次第にやさしくなる
手をひいて、君は右の方を歩いて行く
お天気では晴れだと云うことだから
テーブルの上のものは全部そのままにした
水差し、さへも
いまでは泡をつぷつぷと上へと浮かせ
あゝ、どうやら甘えたがってゐる
あゝ、どうやら恥ずかしがっている
泣きたがっている
歌いたがっている
他者とともにある社会的存在の臨界を歩こうとするが
しかし、その意外な高さのエッジに驚き
安息日を
焼き立てのパンの匂いに誘われて
どうしてもついあちらの方に行ってしまふ
しかし、あの人はいつも半身の右側しか見せない
(店長を呼んでください)
忘却と別れがすぐ背に追いついて来る
わたしはどこにあるのか
私と云ふ他者の存在は何処に在るのか
他者とともにある社会的存在の臨界
安息日に添って
別れも忘却も生の喜びとともに閉じられている
譫妄せんもうと不穏はいたるところに満ち
突然陥穽にぽっかりと
あきれるほどに見事に落ち込む
そこがまるで森の中だったり
或いは都会や
見知らぬ部屋の真中だったりするのだ
再生へと(スープは生と同じほど濃密だ)
私はそれをとても気にする
きみは右の方を歩いて行ったのではないか
ところが躰を廻めぐらす度に
右手の存在は無数に枝分かれして左手に
地球儀を平べったくしてコンパスを
もうすでに、運命へと飛ばす
倉石智證