(絵は語る)まだ西ベルリンだった頃、街角で若い男が自転車で曲芸をやっていた。
世界の真中に自転車を立てゝ
回して、
止めて、
自分の影を拾ふ
私はベルリンの何よりの市民だ
そこへ行く人よ
背中を見せないで
こちらを向いてほしい
ゆがんだ太陽め
無心にフレームとハンドルを回し
世界の真中に自転車を乗り入れる
走る、回る、止まる
サドルの上の空は
けふも完ぺきに曇天だ
わたしは時間になにかを加へることができるのか
私の下の影よ
私とともに回れ
ベルリンに来て
ベルリンの鳩は鋪石を糞で汚す
たのむよ拍手を
たのむよ無視しないで
なによりも無関心は
世界のまんなかで、わたしをひどく傷付ける
あの演説のやうに
軍靴鳴り響くなら
いつだって銃を手に飛びだしてゆく
世界の真中で、
自転車を立てて、
止めて、
私ができることは
私は今出来たばかりの私の影をひらふ
蒼白の世界のすぐ隣りで
世間は何事もなかったかのやうに
倉石智證
世界は今も危ういバランスの上に・・・
1989,11/9「ベルリンの壁」崩壊


