二人の老人はレストランに出掛けた。

何を食べ、

何を話したかはわからない。

ワインを開けておしまいの方でコーヒーを飲んだ。


長い間、つれそった夫婦のように

言わなくてもわかっている

でも言ったらもっとわかっている

あれは林檎になりたかったんだ

いやあれはただ赤い色が好きだったんだ

羽根車、廻れ

私たちが老人だからと云って


出て行くときはピエールをドアの前に置いて

古いピエールではなく新しいピエールを腕に

出掛ける

古いピエールはドアの前に佇んで

いつまでもいつまでも空の向うに見送っている

そんなこと云ったって

いつかはきっと帰って来るに決まっている

双子の兄弟のやうに

愛と憎しみは時に連鎖して

だから新しいピエールはそっと家の後ろから入って来る

林檎は家の部屋に大きく膨らんで

日も差さないうす暗がりでは

赤い色を点さない


あれらは二人して一つの林檎になりたかったんだ

丸い形になりたかった

いやどうしても赤くなりたかった

そうではなく、すぐに真っ直ぐに落下してみたかった

新しいピエールは古いピエールをドアの外に呼びかけて

そうこうしているうちに林檎は部屋ぢゅうに育ち

さくさくといい匂ひをたてはじめた


二人の老人はレストランに出掛けた。

何を食べ、

何を話したかはもう覚えていない。


倉石智證