ヨダカはけっして醜いなどと思ってはゐない

確かに口を開けるたび喉に口が裂けるほどで

でも口を開けるたび紅い芥子の実を食べたかのやうに赤くて

どちらかと云ふとそれはまるで生命のやうにきれいだ


雛を抱いてゐるところへスズメバチがやって来る

同じほどに赫いスズメバチでホバリングしては近づく

赤い口がスズメバチほどに開いて威嚇する

昼が過ぎて夜が来て

夜が過ぎて昼が来る

それはどの母と父と親ほどには変わりはないが

雨の日などはずぶ濡れになりながら何日もさうしてゐて

時に、思ひ出したやうに身震いする


夜になった

父は白い羽根末うれをひるがえして闇に飛び立った

さうして闇に滑空する姿は

まるで森かなんかの精霊のやうに透明で

見えない影になり

その影に虫たちが吸い寄られるやうに集まって

呑みこまれる

さうして喉に溜められた虫たちは

何度も何度も子どもたちに与えられる

勿体と経誦む鳥の口は

何度も何度も赤く、せがむ子どもに開かれる


そして

凶事はすぐ傍らにあるものだ

決して眸の閉じないものがすぐそばにやって来て驚かす

母親は何度も何度も羽根を広げて威嚇する

蛇は藪の向うに逃げたのか

いや、思いがけないところから忍びよって

一瞬、もうすでに長すぎるものは子雛を捕まえて

うねるとぐろの中に閉じ込めた

親の心、子知らず

子雛の命は闇の中へと運ばれて

すると、母親は子どもと蛇に背を向けて

全く無関心にそこから離れた


ヨダカはけっして醜いなどと思ってはゐない

音もなく忍びよるものはいつもそばにゐて

災厄は禍ともなり福ともなり糾あざなへる

だから、みんな星々に

決して一人を祈ってはならないと賢治さんは

夜になり、

闇を滑空する度に虫々を呑みこんで

ヨダカはそのたびに少し涙ぐむ


倉石智證