あなたが葡萄の房を手にとって眺めているころ

わたしは東京で新聞を読んでゐた

あなた達夫婦が

葡萄の房が棚下に広がってゐるのを眺めているころ

わたしは机の前にゐる

葡萄に色が来ないと長嘆息する

わたしは飲みかけのコーヒーをとりこぼしさうになる


いつもなら白いきれいな薄紙に包んて

5㌔パックの函にきれいに詰めて出荷するものを

けふはコンテナにざわざわと採り込んで

赤い作業運搬車にのせて棚下から運ぶ

みんな、ジュースにするしかないのだ

去年の暮れの剪定からはじめて

導枝、房作り、粒抜き、消毒やらカサ懸け

途切れることなく丹精してきたものを

けふの秋の空はやたらに青く眩しい

葡萄に色が来ないのだ


長い雨の所為かね

お天道さまがへんだったものね

樹がすこし齢を取り過ぎたかね

無理して成らせ過ぎたかもねへ

いろいろあってコンテナにざわざわ採り落とす

もうこれ以上色を待っていても仕方がない

棚のあそこら辺からもう病気がはじまってゐる


不意に、ベレゴボワだなんて

それにしたってなんでこんな名前を覚えてゐるんだらう

妻はスーパーで牛蒡を買って来た

TELがあっておばあちゃんは少しがっかりしてゐる様子だったが

由美子ねーさんTELの声は意外と明るかった

テーブルの上のごぼうを眺めていたらいきなりベレゴボワだなんて

みんな埒もなくジュースになるなんてそれは残念だったね

トリシェさんの「私の履歴書」を読んでゐて

義兄夫婦たちはコンテナを前に汗をかいてゐて

いろんな事柄がごったになって

ジュースになるんだって

おまへに云われたくない

そりゃさうだ


かうしてお百姓さんたちは

また忍耐強くなる


倉石智證