山田の莫迦
何処にゐるんだ
Catcher in the Rye
麦の穂をそんなに噛んでいたらグルテンになるよ
とほい日に三角屋根の下
本を広げ、思弁する
季節はもうネコジャラシからミゾソバへ移って
足を踏み入れると荊棘けいきょくにきりきりと皮膚が擦れる
空気はこんなに爽やかに透明になった
それなのに小林の莫迦
あれは何処にゐる
片足を田圃の中に入れて
にやにや笑ってゐる
やはり三角屋根の下、大股で歩いてゐたものだ
田螺たにし、かい ?
田螺にはまだ早い
泥鰌かい ?
泥鰌はまるまると太ってゐる
楊の枝で水を掬いかける
stand by me
もっと近くに来てよ
かうやって昔から
鉄路を幼い日々に向かって歩いて行く
ぼくたちはいつも一緒だねって
変だよねって
山田の莫迦、何をしてゐる
小林を探してゐる
小林はほら、あそこに
ミゾソバが広く広がって
小さな金平糖のやうな花がちるちる踊って
秋水が落ちる音が聞こへる
薄の穂の中を、ほらとほくに
薄の穂
小林行けば山田かも
田圃の中の案山子が笑ふ
倉石智證