茗荷の子が生まれた

仏心に近く

たなごころに乗せて中秋の名月に差し出した

ほろほろと物忘れする


ば様は家の周りを一回りする

じ様はデッキチェアに眠ってゐる

スリバンドクおまへは

おまへを差し出すと

眠りから覚めたじ様は

あかい口でしゃぶるやうにそれを食べ始めた


ば様が屋敷の下で採ってきた

それをさへ忘れて

水で洗って笊に乗せておいたものを

その形容なりが愛らしい

香りが

スリバンドクは物忘れする

みんな名前を荷なって苦労するのだ


塵を掃浄せよとのことだが

それよりも先に降る塵は積もるばかりで

だから、物忘れする

きびすを返すことなく、まっすぐと

みな忘れるがいいのだ

それをば様は不意と

中秋の名月だと思ひ出し


茗荷の子が生まれた

スリバンドクはもっとも釈迦牟尼に近く

見えないお月さまは今、

真ん丸になった


倉石智證

周梨槃特=スリバンドク

お釈迦様の一偈さへも覚えられずすぐに忘れてしまふスリバンドクは

お釈迦さまに愛された。

「塵を掃き垢を拭へ」と申しつけられて、

毎日掃浄に勤めた。

自分の名前さへも忘れてしまうので茗荷(名札)を首にかけていた。

それをさへもまた忘れてしまふ。

しかし、スリバンドクはお釈迦様の云われるままの務めを立派に果たし、

ついに阿羅漢になる。


スリバンドクが亡くなって埋められた地面からは、

しばらくして茗荷が生えて来た、と云ふことだ。