■蝶の翅に幼虫の姿形が浮き出ているのが分かるだらうか。
あおむし───かわいい顔をして眼は何処を見ているのか分からないが、
完璧な、戦略。
たとへばおまへは愛するか、死ぬか
その二つしか目指していないのだ
青虫、おまへはつくづく不思議な奴だ
青虫、しかしおまへはもしかしたら、
感動だ
おまへがそこにゐる、と分かるだけでも
わたしまでそわそわ、もぞもぞしてしまふ
鳥の眼を盗んで
自分は緑の葉っぱになって
だから、もぐもぐと動く度に微かでも
いつでもそれは愛するか、死なのだ
度が過ぎるほどに、狂おしく
時におまへたちのお母さんが翅を広げてやって来る
一瞬ヴェランダに電気がビカビカと走り
そしてまた、すぐにしんと、静まりかへる
妻が激しく対峙し、
摘ままくものを
そのことは鳥の眼よりもあざとく妻の知るところとなり
箸で摘ままれたおまへたちの数匹は
容赦なくヴェランダの外に投げ捨てられる
おほかたは
すぐにやって来るアリたちの餌食になって仕舞ふのだらうか
そのことを思ふとすこし悲しい
レスピナス嬢のお尻は蝶のやうに膨らんでいる
彼女にとって恋愛とはまるて生か死なのだ
それをダランベール、
名のほどでもなく
青虫がそのやはらかい躰を枝に隠し
葉の裏に棲みかへる度に
ほんたうの愛し方とは
度が過ぎるくらい、狂おしいほど、
熱狂的に、そして絶望的に
愛するか死ぬか、
その二つのことしか目指さない
私の手の平においで
私の手の平に
転がす
おまへの微かな前脚の蠕動が
私の皮膚の下の血管に何かを伝へる
こそばゆいとも、狂おしいとも
そのことが分かるだけに
絶頂に辿りついたとき
しかし、どうしておまへたちもそのやうな面倒な手続きを取るのか
迷うことのない強固な意志なのか
それはみんな彼ら彼女たちにとって、静かな
木立の中の日々になる
だから蝉蛻せんぜいのとき
おまへたちが一斉に蝶になるとも
そのときはそれは
おまへたちにとって確かにただならぬ喪失にはちがいない
■河原で、長いこと蝶と戯れる。
倉石智證
レスピナス嬢は1750ころ
サロンの女王。
ルイ15世の時代で、
マリー・アントワネットが生まれてゐる。
モーツアルトが間もなく活躍し始める。

