神はいつも右のこめかみのあたりに感じてゐる

おゝ、しかし性は

シモーヌ、おまへの毛の奥に不思議がある

桟橋を水が叩くよ

満ちて来る哀しみのファドの調べ

黄金こがねいろに港を埋め尽くし

疲れ果てた旅人がいま帰って来る


海の帆はぼろぼろで

風が凪いで思惟の帷とばりに垂れさがる

ドアを開けるとまちがいなくそこにおまへはゐるのだ

赤いルージュの爪色で

わたしを酔はせるためのリキュールを滴らせる

カウンターで

おまへの手がわたしを慰めるのだよ


古い調べが梁のうへから埃のやうに落ちて来て

神はいつも右のこめかみのあたりに感じているが

シモーヌ、今すぐにでも

おまへの毛の奥に不思議が

あゝ、疾走する悲しみと云ふ

それは時の忘れものなのだ

それだから


つかの間癒された後で

いつまでも水が叩く艀はしけが思い出させる

古い帆船にのって

忘却、

時の間にまに

見も知らぬ海の果ての向かうにでも

旅立つとでも


倉石智證