野を行けば野にさまよふ
風のそよぎは葛の花
赤いルビーは野イチゴに違ひなく
日差しはやはらかく土くれにそそぐ
今は耕されていない畑の杭に
トマト畑は横に傾なだれて
もう、赤とんぼがさやぐ
夏のきはみがやって来て
山の頂に白雲が高く立ち
それでも蝉しぐれが熄やむと
一村は急に軽くなるやうだ
夕の眼に見えない帳に空気も少し涼しく落ち着き
オーシーツクツクが鳴きゐ出し
石垣沿いにスヒーンスヒーンと鳴く虫がゐる
どれも姿形が見へないだけに
またしても鍬を持ち立つ私の姿形の底ゐに
少しばかりの悲しみが休み
だから、死んでも誰かが覚えてゐるかぎり
あなたもまた生きてゐると
公民館やお墓の石の間に咲く
白いてっぱうユリの
眸の縁を微かに紅くして
それらはみんなまた
忘れがたいうつくしい風景だ
倉石智證