私は内省する

私が棲む家は内省する

おおきく呼吸しはじめる

季節や時間に間に合うのか

家に棲む猫は部屋から遊びに出掛けた

とてもひとりでは耐へきれない

わたしは家を出て門を左へ

田圃が青々として

風にうねり

犬がついて来る

そして、犬が笑ふ


むかし、ここには川があった

田圃の水路が集まって

すこし大きな流れになった

流れの下にはいつも泥鰌や鯰が安んでゐた

藪が川面に垂れ

糸トンボがいつもそこいらに翔んでゐた

猫を、流す

犬を、流す

笊や函に入れて乗せて、流す

仔細かまはず

お盆の後では、胡瓜や茄子の馬も流した


水の流れの面の少しカーブした辺りの

薄明かりの射し

そして、それらはすぐに

あっと云ふまにあちらの世界に旅立った

思ひ立って一杯を飲む

一杯はたちまち二杯になり

うろんな

わたしの肺は濡れて

考えて呑みはじめたる一合の───

になる


目の前の壁が汗をかきはじめ

わたしは囚人でもないのに

わたしは内省する

私の家も深く呼気をしはじめ

わたしも囚人なのか

いつのまにか時の網に捉えられて

薄明かりの中を流されてゆく


藪から棒に暁闇に手が出る

向かうで、

ごはんですよ、と呼ぶ声がする

あゝ、また助かった


倉石智證