待っていたのに来なかった

行ってしまった

少し悲しかった

雲が片ひら、片ひらととんで行った


白砂に海の波が何度も何度も寄せてはかへした

海の波はざっ、ざっと砂を洗った

風がざわっ、ざわっと松の枝を鳴らした

待っていたのに来なかった、

行ってしまった

すこし悲しかった


白い雲が無性に海のうへに立って躁ぎ出し

沖に白い帆の船が横に走って行った

浜昼顔が咲いて

土手を歩いて行くと

歩く度に、草叢からバッタやキリギリスガ飛び出て跳ねた

若いカマキリは翅を震はせて低く草の上を滑走した

川の水がきらきら跳ねた


ひゅッと風が湧いて

わたしの帽子が風に攫はれて空のうへへととんで行ったと思ふ

山の上にも雲が見えた

待っていたのに来なかった

もう二度と帰って来なかった

悲しかった


倉石智證