■葡萄の粒抜き


みんな自分ごとですから・・・


カッコーがすぐ近くに来て鳴いてゐます

今年は里芋の出来がいいやうですね

風が熄

畝の間の相撲草すまひぐさですよ

それとスベリヒユ

見て見ぬふりをしてゐたのですが

いつ、こんなに根深く大きくなったんでせう


せぎの向かうの小父さんが

もう若くはないわたしの妻をつかまへて

長い世間話をはじめます

わたしは除草機のダイナモを止めて

しばらく畑の木偶でくの石ころに腰をおろし、水を飲もうと

カッコーの声が放棄地の藪の向うから聞こえます

冷たいポットの水を飲もうと

顔ぢゅう汗だらけの汗を

手拭で拭いて


雨が上がって陽が強く照り出す

湿りを帯びた土くれに

すももの青い実のまゝや

ぶだうの余計のものやら

いまは粒抜きで忙しい

樹の下に棚下に、まるで見知らぬ人の青い眼のやうに

そこいらぢゅうに落とされ、散らばって

まるで唐突な賢治ワールドを思はせる


みんな自分ごとですからと

さう云へばすぐ家の隣組の87歳の旦那さんが亡くなって

けふは午後からお通夜だと

ば様は身の不自由なじ様をベッドに残し

黒い喪服で出掛けた

カッコーの鳴く声の合間に

せぎの向かうの小父さんは

「通夜の席に行かんかなんねから汗かくわけにはいかんね」と

それっきり、


妻はやうやく畝の間に戻り

小さく青く蹲り

わたしらはまた畑に取り残されて

しんねりむっつりと相撲草とスベリヒユと格闘する

汗だくになり、畑の畝を越えて私らの頭の上を

カッコーが鳴き交わす

あれも番いか


死んだ人は仕方がない

かうして地べたを身を折って

はいずり回る姿勢から解き放されて楽になるのだから

それに較べれば

地べたから引き抜かれるわれわれの身にもなってみろ

風が少しでも吹くと

身もだえてちりちりと苦しく枯れてゆく


ば様は夕刻に帰って来た

ぺたんと夕餉の食卓に坐ったが

通夜ぶるまいで頂いて来たとかで

カツヲを一切れ頂いただけ

ぼくらは缶ビールの空き缶を尻目に

もう焼酎のお湯割りに突入し

声は胴間どうまにいよいよ怪しくなる


古い話が繰り返し繰り返し語られ

星はどこかで瞬いてゐるのだらうか

もうまはりぢゅうは、

あの人は筋肉が固まってゆく病で

けふは具合が悪いと日向を逃れて

家の日影に腰をおろし肩で息を継ぐ

あの人はもう後2カ月ばかりと云ふからには

指折り数へ


もうまはりぢゅうは弑しいされ、息も絶えだへに

寿命の人は酸素マスクの下で静かに息を引き取り

跡取りは間に合はず

耕作放棄地に雑草は蔓延るままに

このやうにして、

7月にして、

みんな他人ごとですからと

根を空に曝されたスベリヒユは夜にひっそりと嘯く

夜更けてカッコーが鳴く

カッコー、カッコー、カッコー、

カッ、カッ、カカカカ・・・


倉石智證