語りかける

きっと希望と不思議に会いに行く

せっせと水を湛える


その何かに触れるとき必ず風が吹いて

すると子供たちの歓声が屋上いっぱいに響き渡る

一斉にこちら目がけて押し寄せるのだ

屋上のプールに

水が溢れてゆれてしぶきがあがり


経験を叙述しやうと思ふ

監視員は少し高いところからかうして子供たちを見守る

こんな風にして何かが少し変化し、何かが少しずつ変化し

或る時、自分が通っていた道がずいぶん狭かったのだな

と感じたりする

ずっと後のことで大人になってからのことだが

その頃には私はこのプールいっぱいの水のことをふと思ひ出し

その頃それをどんなふうにまた経験してゐるだらうか


それぞれどの子も無心に笑ひ声を上げ

水を掛け合って

けふは午前中いっぱいの授業で

監視員は少し高いところに上がって

そしてお昼になった


子どもたちは水から次々と上がった

濡れた躰で

肩甲骨の浮いた他愛もないきゃしゃ身体つき子どもたちであった

最後はがやがやと教室のほうへ歩み去った

プールはしばらくは漣をたてゝいたが

まもなく静かになり、

何事もなかったかのやうに

何事もないプールいっぱいの水になった


監視員は監視台に伸び上がって

指先で四方と八方を指呼点検した

雲が湧きあがって来る

すぐに大人になる

希望と不思議があって

この子たちもいつかはみんな

その先にどんな景色があるか想像するのだ


倉石智證