雪隠せっちんな気持ち
みんなとてもあの時代はこんな風に
とても平和な気分で雪隠な気持ちに浸れるわけではなかった
雪隠に昧読して
雪隠に
折からのウグイスの声を聞く
ででぽっぽー、の声もある
とってもあの頃は予備役の召集もあって
雪隠の余裕もなく
歓呼の声に送られて船に乗せられて
でも海を渡る前に
バシ―海峡ではたいていは魚雷の餌食になって
わたしのとーさんは不幸中の幸いと云ふか
マレー半島に上陸できた
4隻中のたった1隻だった
幸せは続いて間もなくすぐに捕虜になった
そして、戦争が終わった
私が生まれるのはさうした時だ
まったく4隻中の1隻で
戦死者中の捕虜
海を引き返して来てすぐに母さんに抱きついた
奇跡のやうなたった一粒なのである
まだ肥桶を担ぐ時代が長く続いて
とっても雪隠な時代が
ウグイスも上手に鳴いて
菜の花畑が黄色い帯を畑に伸ばす
藁ずとを肥桶に落として
畑の小道をよいしょよいしょと行く
陽は長閑で紫雲英畑も紅に
麦を踏むお百姓さんたちもいて
林檎畑のところどころに肥壺がある
平和な時代がずっと続いて
ガスも通じでトイレも水洗になったが
とーさんもかーさんもとっくに亡くなって
でも、わたしに
今でもトイレに籠れば
また云いやうもない平和な静かな時間が訪れて
あゝ、妻に呼ばれるまで
けふもわたしにとって静かな
とっても雪隠な仕合わせ
倉石智證