ぼくは女の湿った肛門の周りをいぢっていた
南洋航路の子午線の上だ
彼女をこれ以上に笑わせるためではなく
ただいい子でいるために
指を鼻に付けると湿った排泄の臭いがする
南に船が下るにつれ
果物はさらに熟れ饐すゑたにほひが立ち込めた
大洋は夜に眠り
夜が昼になり、昼が夜になり
少し冷えたと眼が覚める
スエズではスフィンクスがナイルに笑った
パリに行くべきか南に下るべきか
海峡が蒼く輝く
ランボー、おゝ
ランボーよ
隊商はそちらへ向かうのか
花嫁のために山羊が屠はふられる
高々と陽に掲げられ
砂漠に水が捧げられる
エウロペが大陸に蒼褪めて遊弋する
略奪される花嫁
牧神の午後へと
おゝ、不正直なゼウスよ
いまとなっては汝の男根を切れ
陽光煌めく地中海を
精液を泡だてゝ滑ってゆく
しかし、あの男が生まれる前は
少なくとも世界はそれほどには陰険ではなかった
初めに言葉ありき
ロゴスが混沌を呼び寄せ
エロスとタナトスを混在させてゆく
不承知なリビドーよ、汝は不承不承それに従ふが
恍惚の表情を浮かべ
死は死に過ぎないものを
鎧がぶつかり合ふ激しい音
槍の穂先が煌めく
昼が夜になり
夜が昼になった
ナイルにスフィンクスが笑ふ
新たな謎を出し
しかし、衰弱せるエウロペに敢然と背を向け
言葉に永遠の別れを告げると
ランボーは隊商に紛れて
砂漠の彼方に去った
そしてエウロペ、
あなたは“Quo vadis ?”
「Eli, Eli, Lema Sabachthani?」
(「神よ、何ゆえに我を見捨てたもうや」)
キリストの横腹の空虚な穴ではなく
なぜならすべてに契約された
あの世界の夥しい無関心に
さうではなく
あの南洋の果物が激しく闌たけてゆく
わたしは私の子午線へ帰ろうかと
倉石智證
“Quo vadis ?”=あなたは何処へ ?
ペテロがイエス・キリストに聞く。
「Eli, Eli, Lema Sabachthani?」=エリエリレマサバクタニ〈ヘブライ語〉
磔に。
盗賊のバラバが隣の十字架で磔刑に。