薔薇は甘い感傷です

薔薇は窓の外の風景です

わたしはまだ部屋の内にゐて

われに五月を


われ知らぬ海に筏で漕ぎゐ出す

薔薇は感傷です

深くしくしくと心が痛み

さやうなら

四月の空に別れを告げ

真っ白い帆を上げて

出掛けるのです


ローマ未然ギリシア

ペニンスラ、長靴をはいた半島

あゝ、なんと空はかぐわしく

絶え間なく海から吹く風の

爽々と清明に満ち

人々は驚きに満ち、物語はいたるところに

日影さす家屋の陽と翳のあらはに

陽はまっさかさまに大地に落ちる

半島を巡って


薔薇は甘い感傷です

心に疼くそれらが

傷であるゆへにそれから逃れられない

偽熱に心地よく、部屋と窓を閉め切って

古代の地図をテーブルのうへに広げる

酒杯に描かれた文様

神々が無邪気に遊んでゐる


長い航海の果て

五月の薔薇

それの棘であなたの肌を傷つける

酒杯を空けるたびに

(みんなあんなところで何を熱心にしていたと云ふのでせふ)

とほい物語や、恋を手招き、

呼びかへす


倉石智證