誰も見に来ない花見を見にいかうかと思ふ
誰も見に来ない花見は野原の中に突然で
狐や狸がうすぼんやりと佇み見ている
ずいぶんと静かなもんだ
こんなにもにぎやかに咲いているのに
ずいぶんとまた静かなもんだ
あんまりにも静かなもんだから
それは何かの間違いではないかと思ってしまうくらいだ
花は幾重にも虹になって重なり
長い花のトンネルがずっと時間の向かうまで伸びている
忘れ去られた犬が尻尾を垂れ下げ
とっととっとと歩いてゆく
かって人間とあれほどに親しかったものだから
ふと立ち止まると、眩しさうに花の下枝を眺め見る
濡れた鼻面に花片ひらが届くと
さも懐かしさうに尻尾を振る
ずいぶん時間が経ったが
誰も見に来ない花見では
突然の野原で
狐も狸もあんまりに暇を持て余して
うすぼんやりととほくのそんな犬の仕草を眺めている
倉石智證