ひとつひとつが柚子の思索で
まぎれもなくぼくの思索なのだ
庭先に、あゝ、黄金色の金の玉が
それこそ黄金に実ってゐる
風呂に入ると黄金の玉が浮かぶ
それでようやく、あゝ、これが僕の一年の考え事なのだ、と思ふ
痘痕あばたになったりはするが
できるだけ庭先にほうたらかしにされて
気が付いたらもう秋になる
金の玉を両手に掬い
逃げやうもない金の玉が腕の隙から背中に入ろうとして
くすぐったい
高尾のお山を相模湖の方に下りると
100年の桜の大木が茶店の先にずんぐりと立ち
禾のぎの穂に咲く田圃を過ぎて
坂を下り川の淵を巡り
吊り橋を渡って坂を上がると国道の端に
柚子を台の上に広げて売ってゐる媼おうなの
背の山と軒の影になった顔があった
なにしろ100円で七個のほどもと
妻の指がすぐにも黄金色の柚子の玉の上を探し始める
おゝ、おゝ、金の玉だよ
ひと夏の蝶と蛹の来歴はあったものゝ
あれはあれであのものたちの思索には違いない
深い思索が陽光きらめく葉の間間に煌めいて
蛹は幹や枝に隠れ
深い思索に閉じこもる
妻は包丁の手元で柚子の皮を片に剥く
湯気の立つお鍋の向うに過ぎ去りし季節が見え隠れし
ほろほろと中華匙から零れる透明な雑炊を掬ひ翳す
鼻孔に抜ける柚子の仄かな香り
膝の丈ほどのものを植えたのは何十年も前のことだ
前と後ろをしっかり洗って湯に入ると
手足が勝手にのびのびとしてゆくのだった
倉石智證