朝陽のピッカリ
お舅さんのにっこり
旦那さんのちゃっかり
わたしのうっかり
そのやうに「神の国」では
朝ごはんを食べるまへに労働することが当たり前のことで
それは長いことお嫁さんの仕事のことだった
昨晩の疲れが残ってゐる
それよりもずっと前のまへの夜からの疲れもだ
コメがあんなにも大事なことは知ってゐるが
それにしたって───
朝陽のピッカリ
お舅さんのにっこり
旦那さんのちゃっかり
わたしのうっかり
そのたんびにけふは川の方へとか
そのたんびにけふは山の方にとか
愛のやうにとか
だるい・・・
とにかく、引きずられてゆくのだ
わたしの脳髄に鉤を掛けて
子供がぽろぽろ生まれて来た
車を運転して細い長いうねる道を上って行き
またやがて下りてくる
すべてたいていの美しい棚田は投げ捨てられて
萱や叢木の下になって
このうっすらと積もった雪の下にある
朝陽のピッカリ
お舅さんのにっこり
一軒の廃屋に見まがう農家の棟先に
山羊が不思議さうにこちらをじっと見つめてゐる
「神の国」ではいたるところに神さまが潜んでいるのだが
そこからまへにはなかなか容易に進めない
泥や蔓のやうに拘泥してゐるうちに
子供たちはみんな村を去って
じいさま、ばあさまも死んだら
ちゃっかりとうっかりだけが残って
たまにやって来るもの珍しい旅人に
我が家の山羊も
もの珍しさうにじっと眼を向けるのだ
倉石智證
新潟県松代の奥の方の棚田は・・・