ガブリエルは太く厚い翼を持って
脚に絡みつく蛇など、いとも簡単に空の上へと運び上げる
しかし、それなのになぜ地上にゐるあなたは
よその男の子を孕むのだ
まず風月堂に入って朝のコーヒーを頼む
朝と云ふかしかし、新宿の街は未だ目覚めたばかりと
バッハのフーガはゆるゆると規則正しく上下し
ガラスの壁面の外の舗道を行き来する人々の横顔は
一つの優雅な絵画だ
昼にディグへ下りてまたコーヒーを頼む
セロニアス・モンクに昼なのにもう夜を聞く
待ち合わせたのにまだ来ないものだから
コーヒーは冷へて
すぐに苦いものになる
ビター、フルーツ
待ち切れずに夕暮れ時の雑踏へと逃げ込むのだ
このやうにして何度も
テーブルの下で足を踏みつけたり
蹴り合うカップルを長いこと見てきた
それはわたしの子であると
地球の向かうのパリから追いかけて来た
泣き腫らし、マスカラが落ちて眼の下が黒ずんで
女はすぐに孕むものなのに
それがだれか、と云ふやうなものではなく
何度となく青春と云ふものは
あゝ、あそこに疾り去ってゆく
大天使ガブリエルは
地の災厄をいとも簡単にに空へと運び上げるが
気まぐれにそれをまた地へと放り投げる
賢者は愚者となり
女たちはすぐに孕み続け
あなたは待ち合わせたのに少しも来ないものだから
あゝ、ビターフルーツ
眠い眼で。
また明日へ。
倉石智證