屈託がない

なんてあり得るのか

ぼくの右腕は屈託なくテーブルの上に置かれ

左手はみそ汁のお椀を掴もうとする

恬淡と、と思いこもうとしたが

熱いには熱いので

おっとっととテーブルの上に差し戻す


ノンシャランはけふの秋の空のやうだ

屈託は少しの話題にもならず

いまではそのやうな人は阿川佐和子さんみたいな女性だ

ごめん下さい

と古びた家の引き戸を開ける

「ゴメンクダサイ」

が片仮名のやうになって

朗らかに薄暗いお家の奥の方にすっ飛んでゆく

不思議だなあ


倉石智證