若いときはそんなもので
その人の向かうに何があんだらうと
ひとしきり
やたら賑やかに声をかけまわしたり
無理無理その人の向かうをこちらに振り向かせたり
いやだ、と云ふわけでもないのだが
顔をひん剥いてみたり
ひん剥かれたり
気にもならなかった
そのうちに凝っとこちらを見ているものもあった
顏をひん剥いたら
実はさらにものすごい笑い顔でいっぱいだったり
意外とのっぺらぼうで
ただ口だけがへの字に横一文字のものもあった
尻に顔があったりして
ギョッとする
お箸が転んだだけでお腹を抱えて笑ふ
大胆に
つい女の子なんかに声を掛けたりすると
トンでもないところに連れて行かれたりして
それが小さな恋であったりすることが今では分かる
少しだけ苦い思ひだ
しかし、それらはみんな若いころばっかりのことだ
人間に興味があって
だから、人間を立たせ
声をかけ
こちらに振り向かせる
のっぺらぼうの顏
或いは文字でぎっしり埋まってゐる
胸の扉の裡が機械仕掛けで
あったかい手をそっと差し出す
どうかするとけふみたいな朝靄の中から
いろんな人たちが
きらきらと光りにまぶされてゆっくりと現れ出てくる
それはなんだらうと云ふほどの事でもないのだが
一体全体なにがあんなに楽しかったのだらう
すべてにおいて完璧だったと思ふ
倉石智證