「亭主の好きな赤烏帽子」

■(13,10,2日経)

横浜市緑区のJR横浜線の踏切内にいた男性(74)を救助しようとした

会社員、村田奈津恵さん(40)が電車にはねられ死亡(1日)。

「気の毒…」献花相次ぐ 横浜の踏切救助死亡事故から一夜。

事故現場の踏切で手を合わせる女性(2日午前、横浜市緑区)


9月を過ぎて10月になっても

まだ雨だ

9月の雨、rain、rain

雨になったり、晴れたり

悲しみはすぐに雨になる


なにしろ祈る間もなく、突然のことだ

踏切に電車が入って来る

間に合うのか、というその時

神さま───

一人の女性の人間の眼に見えない気持ちが走り寄り

激しい衝撃の瞬間

一人の女性の形は入れ替わった

人間であるべきものが抜け出て

別な見やうもない尊いものになって宙へ飛び出た


そこに、世界にある隙間とはなにか

いきなり、

神様に選ばれたかのやうに飛び込んで行ってしまった

それは、美談ではなく事実なのだ

翌日、多くの花が線路わきに飾られ

東京の空にはめずらしく虹がかかった


世界に不意に開いた隙間

その先は見えやうもないが

ドアを開けておけばいつかきっと還ってくるさ

みんな、誰しもがさう思ふ


倉石智證