「亭主の好きな赤烏帽子」
■13,9/11久里洋二さん「蝶になって」

(絵は語る)こんな蝶が飛んでいたら網でとっ捕まえたいな。


で、

どうすんの

どうすんの

どうなんの

とっつかまへる、だなんて

どうも、物騒だ

ものさはぎな


やはり、韃靼海峡をこへてシベリアへ行くか

ブラゴベシチェンスクと黒河

間にアムール川が流れる

哈爾浜ハルビンの向かうに粉雪が流れるやうに降るよ

革命も流れて

若き英雄たちも忘れられた

しかし、その朽ちた墓の辺りで

春が初夏と一緒に来るよ

草花が一気に咲き乱れて

アムールのほとりに

雪かと思へるほどの透きとほった白い肌の少女たちが

花叢の間をさんざめき歩いてゆく


河をこへて翔び立てばみな色とりどりの蝶になる

蝶たちは韃靼海峡を越へて

新宿区のヴェランダにやって来た

案外それは千代田区かも知れない

で、

どうすんの、どうすんの

どうなんの

やはり、あのエーテル

あれをふりまいて眠らせて

あのくびれた胴に針を撃つ

昔の少年たちも今は大人になって老人になって

それでも白い垂直の壁に蝶たちを無数に標本する


その傍らで居眠りしながら

蝶の翅の陰に

今は胴のない妻が突如立ち現われて

待っていたよと、悶着する

で、

どうすんの

どうなんの

どうなのよ

標本の蝶たちは驚いて目を覚まし

一斉に外表の空に向かって飛び立って行った


倉石智證