老人とはさう云ふものだ

違ふ時間と気候に棲む

may be、

may be、

それはものすごく手古摺る

透明な空気の中を

泳ぎ出すやうに歩いてゆく

心躁ぐ、心揺れる

太い樫の木の下を腕を組んで


老人とはさう云ふものだ

熟成したワインのやうに

四季を過ぎて芳醇に香り立ち

回顧に耽るのではなく

may be、

may be、

しかし、思ひ遥けしとまへに進む

もはや後ろには進めないからだ


冷へた敷石を、腕を差し出して

心もとなくも───

はげしく落とされる枯れ枝の音よ

それは私の耳に心地よい

杖はベンチに預けておけばいいサ

倒れさうになったら私に寄りかかればいい

枯れ草の中を、枯れ葉を踏みしめて

ゆっくりと木々の下を歩くとき

私の芳醇なワイン

と、ヴェルベットのやうになめらかに

何の不思議もなく恋を語りはじめる


老人とは屹度さう云ふものだ

恐ろしく皺を刻んだ見なれた顔でも

紅く燃える宝石のやうな思ひが

まだ胸の奥にある


倉石智證

下高井戸シネマで、妻と二人で、

「カルテット」(ダスティン・ホフマン監督)を観た。

座席の周り中見事に全員が、シルバーのみなさんなのでありました。