「亭主の好きな赤烏帽子」
■久里洋二さん「男は行ってしまった ? 」

(絵は語る)男のかってなのか、女がかってなのか?

そこで私は突然───


餃子を食べたい

花子さんと食べたい

そのぎざきざのにゅるにゅるのしわしわの皺の

餃子を食べたい

その三角の月見の形のものも

時にまあるいのもあるが

委細構わず

餃子を食べたい


その匂ひやかなものも

まったく野菜の馥郁たるものも

中まで真緑色の餃子も

湯気立てゝ、ほんわかと

しかし、焼きならば

その端々の衣の際のパリッとした焼け具合とか

あるいはその色合いさへ

おいしさを際立たせるのだ


花子さんはポーンとその放埓な脚を投げ出し

食卓も、給仕もないのに

もう我慢できない、待てないわと

あゝ、少しでも早く

餃子を食べたい

花子さんと

そのぎざきざのにゅるにゅるのしわしわの皺の

そのいずれもが真実なのだが

食べる方も、食べられる方も

その埒もない花子さんと少しでも

早く───。

スープも忘れないやうに


倉石智證