「亭主の好きな赤烏帽子」

■(写真13,8/31日経夕刊)


「これは解剖しやすい死体だね」って

そんなの何処に在るの

眼が、見てゐる


塀の外、壁の際だ

無人機が空を飛んでゆく

あれは信頼に足る味方だらうか

自転車と西瓜を等距離に、等価に置く

そして、真中に座ってうんうんしてゐる


どっちかを大事にするといふわけにはいかない

とりあへず最初に自転車を軒深く

日陰の中に移つす

これに乗ってゆくときがまたあらうとは思へない

サドルが、ない


では、西瓜はと云ふと

恥ずべきことだが、あれは味方を敵に売ったのだ

なにしろ太陽が四六時中眩しすぎる

西瓜はさうでなくてもパンパンに腫れてゐる

誰かが笑ふ

それで決まった

西瓜は真っ青な空の下の陽の光りの下に曳き出された


みんな日陰に入って背中を壁に寄りかかって

膝を抱える

長い沈黙が過ぎた

等価と等距離が崩れた

やがて間もなく西瓜はバン、と音を立てゝ破裂した

真っ赤な中身が崩れ出る

「これは解剖しやすい死体だね」

白衣の男たちがうなだれていた


倉石智證