猫だって人間くらいの地図を持ってゐるんだ
猫の地図
猫地図
ここは玄関で、これは新聞受け
ここは台所の窓の真下で、
乾いた縁石に地豆が干してある
ここは作業場で、今、軽トラが入って来て停まる
泥が付いたままの鍬が柱に立てかけてある
猫はぐるりと一家を廻り
どこかへ行ってゐなくなる
僕らが畑へ下りて畑作業をしてゐると
いつの間にかそこにゐて
スベリヒユとか
文字通り猫じゃらしの生えてる間にゐて
猫座りして
ぼくら人間たちのすることをじっと凝視してゐる
彼はバッタを追いかけはじめる
彼は草の葉を歯で手繰り寄せて食いはじめる
そして、気が付くと
またすぐ近くで猫座りしてゐる
彼は人間との境界を知ってゐるかのやうだ
それでも時たま人恋しいやうな猫なで声を発する
彼はずいぶんまへから捨て猫なのだ
しばらくまへからこの家から離れなくなった
猫はこの家とこの家の周りの地図を手に入れて
ばあさんが畝にかがんで仕事をしてゐると
その手元にふっと現われて
ばあさんをギョッとさせる
にャーあオと尻尾を立てて語尾を立てて
心底ここまで一人ぽっちで生きて来たが
なんとなくもう耐えきれなくなって
人間の方もどうやら、
でもなんとなく地図の境のこちらに入れたもんかどうか
真剣に悩みはじめている
倉石智證