「亭主の好きな赤烏帽子」

■久里洋二さん「グッド・バイ」

(絵は語る)少しばかり物語をいれるようになった。

say「グッド・バイ」

と云って部屋から出て行った

出掛けて行った人は恋人ではない

部屋には人間の他、雲や気象が出入りしてゐる

あっちの方角には野原が広がってゐて

お花が散々咲いてゐる


ところであの人は幸せになれたのだらうか

ふと心配になって

空っぽになった部屋を歩きまわる

窓から大きな雲がもくもく入って来た


信仰心が無くても

と思った

ちっとも信仰心が無くても

この分ではまるっきりシャガールの絵のやうに

花が花瓶ごと宙を飛んで

白い壁の縁に沿って浮遊する


say「グッド・バイ」と云ったところで

忘れられるものか

すぐに帰って来る

わたしはあの人が

青い透きとほった心になって戻って来るのを夢みた

赤いボールを手渡す


倉石智證