「亭主の好きな赤烏帽子」
■1722~26マーク・ケイツビー「ヨタカとオケラ」

作者のケイツビーは英国のエセックスで生まれ、

動物や鳥へ興味を広げたナチュラリストの草分けである。


逃げろ、逃げろ

螻蛄おけら、逃げろ

それにしたって手に汗、握るなぁ

ヨダカの赤い口、開く

びっくりだ

どうも、嫌われるわけだ


螻蛄を両手の間に入れて

少し閉じ込めると

これがおもしろい

くいっく、くいっく、ぎっ、ぎっ

と、四方八方押し広げやうとする


飛ぶ、奔る、広げる、泳ぐ、潜る

万物の力に逆らって

しかも、愛敬のある

どれッくらいだ

と聞くと

天のおほき宙に向かって

まぎれもなく、これッくらい

と前肢を広げて見せる

あゝ、やれその微動だにしないこと


それなのに、

あゝ、逃げろ逃げろ

ヨダカが来たゾ

悪気はないらしいがどうも貪食な赤い口腔だ


ヨダカは暗くなってくると雲すれすれに低く飛んで

口をあけて

泣きながら他のものたちを食べる

でも今は空に向かって翔んでお星さんになろうと考えた

むかし、私は泣きながら山に登る、と云った人がゐたが

水平に、ではなく

空に向かって昇る

て云ふことは

さう云ふことだったのか


ヨダカはかってない全速力で空に向かって飛翔していったが

やがて、焼けてイカルスに捉えられる

ヨダカはまぎれもなく、天の一つの星になるのだ

ところで、我が螻蛄は田圃の畔の土手の中に潜り

見えない眼で土の中からお空をじっと見上げ

いまではヨダカの行方をほんたうに心配してゐる

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世の中の食と正義はこのやうに行い難いのだった


倉石智證