ゆるやかに始まり
しずしずとゆく
思ひ出の帳の中を
衣擦れの音もしげく
やはらかく地を踏みしだき
いずこからともなく
わが、母のゆく後ろ姿の
高まりつ、低く
迂回して、まるく、まぁーるく
悲しみの胸に奥に酸すになれば
家の外に出でて鳴らす
母の酸漿ほおずきの玉の音の
やさしく笑ひかけ、頬笑みて
懐かしく、とほくとほくに
モノ売りの声も混ざりゆき
ゆへに、亡き母の為のパバーヌ
きゅッ、きゅッとその音のばかり
ゆへに悲しみのばかり
胸の奥に、酸のもののごときの騒いで
庭の端に咲きたる酸漿の
パバーヌ
母が踊れば、まるくまぁーるく
ゆへなく、石積みの端の
色付きはじめたる酸漿の
母は思ひ切り束に抜いて
小脇に
願いませ、天の細い道を
後に続きたる愛あるすべての親土に
あゝうからたちに、手招きする
パバーヌ、しずしずと帳の内に
抜き出だしたる酸漿を束に持ちて
帳の、明るみて
母と母の衣に明るく
エイサーと
待ち、持ちて逝くなむ
倉石智證