この坂道を上がって来る

風がさやぎ、陽がおだやかに降りそそぐ

健やかな足取りだ

重要なものが風景の中でどこにあるのか知っている


子供たちが芝生を駆けめぐり

パティオの周りで水遊びに興じてゐる

獰猛なスズメバチはまだ見当たらない

蛇はうねって乾いた道を尻尾て叩き

横切って草むらに消えていったばかりだ

杉の緑の木々が

列を組んで天を指し

ヒタキの番がそのてっ辺を翔んでゆく


「釣りですかぁ」

と呼びかける

「懐かしくなってさ、今朝夢に見たんだ」

「あら、お若いころこちらの辺りでお仕事を」

「25年ほど前になるさ」

「それはお懐かしい」

「ここいらの水がうまくってねへ」

「えゝ、えゝ、ほんたうにね」


朝、目が覚めて突然

思い立ったやうにして古いこの場所を訪ねて来た

軽トラが傾いて土手の傍らに停まっている

「俺は、死んじゃうのかなぁ」

と、

年配の方は突然夢から覚めたやうに初対面の妻に話しかけた


ヒタキの番が杉の鉾のてっ辺を翔んでゆく

音符が空にあらわれて

遠くから子供たちの歓声が聞こえて来て

この坂道を

妻の健やかな足取りが戻って来る

妻が興奮したやうにわたしに話しかけてくる

boursinのチーズにバジルの青い葉っぱ飾り

グラスにビールが冷へてくる

遅い午餐を頂きながら

・・・健やかな足取りだ

さらに夢のうつつへと入ってゆく


倉石智證