「亭主の好きな赤烏帽子」


■オドラデク(Odradek)の想像図。

本文では糸巻の部位はもっと色もとりどりで、古いちぎれた糸もつなぎあわされていたりする。

形とすればこうなのだが、一方でオドラデクは“言葉”でもあるやうだ。


魚を捕り、神に祈りを捧げる

むろん、神様への片思いだとしても

海には海の、山には山の神様がゐて祈りを捧げる


もうすぐわたしも山桑摘みにゆくよ

その時はわたしのオドラデクも一緒に連れてゆかうと思ふ


倉石智證

カフカ「家父の心配」1917執筆

オドラデクといふ不思議なものについて語られている。

Odradek

「オドラデク」の名前は一説によるとスラヴ語であり、

また別の説によればスラヴ語の影響を受けたドイツ語であるという。

その形は、一見すると平たい星型の糸巻きのようで、

実際その周りには古い糸が巻き付いている。

そして星型の中央から棒が突き出ていて、さらにその棒と直角に小さな棒が付いている。

オドラデクはこの棒と星型の突起のひとつを足にして立っているのである。

オドラデクは神出鬼没で、家の中のあちこちで現れ、

そうかと思うと何ヶ月も姿を見せなかったりする。

名前を尋ねてみると「オドラデク」だと言い、

住処を尋ねると「わからない」と答える。

そうしてかさこそと笑い声を立てる。

語り手は自分が死んだあと、孫子の代にまでこのオドラデクが生きているのかと考え、

複雑な気持ちを抱く。

(webより)


・・・しかし、彼がぼくより生き伸びるだろうと考えると、ほとんど切ないような気持ちになる。

(城山良彦訳では最後の文章をこのように)

カフカはよりよき人生を親密に愛そうとすればするほど、

そこから遠ざけられる宿命に在るかのやうだ。


カフカの全編は良く出来た通常在る人生への片思いに満ちてゐる。

カフカはときとして再読することを要求する。

Odradekはある思ひなのだ。

それはほとんど自分の中に普段は見えたり感じたりしないけれどたしかにあって、

何かの拍子なふとそこに在ったりする抽象なのだ。

カフカは動詞や助詞や、感覚的な接続詞をふんだんに用意して、

眼に見えないもの、

すぐに隣接してゐる確かにある気配のやうなものを導きださうとする。