「亭主の好きな赤烏帽子」

■1936ケインズ「雇用・利子および貨幣の一般理論」

不況や失業などがどのようにしてもたらされるか。

一生懸命考えてくれたんだ。

雇用利子および貨幣の一般理論、

だ。

雨が降っている

思い切って傘をさして出掛けやう

西洋ではレインコートで出掛けるのもお洒落らしいが

ここは長靴もはいてゆかう

傘は何色がいいか

ビニール傘ではいかにもちょいとひ弱だ

靴は何色がいい

ピンク色だなんてかえってちぐはぐでいいのではないか


川の水位が上がって来る

しかし、あれは景気がいいからでは決してないだらう

流されてくるものは胡瓜だったりトマトだったりする

しかし、あれらは物価とは無関係だ

ああすればこうなると云ひ

こうすればああなると云ひ

しかし、この雨には気が滅入る

金利はおカネの需要なんだ

すこしあの橋脚の下に入って休もう

傘の先でとんとんとコンクリートを叩く

雨粒がどっとコンクリートの床に零れる


鬱陶しいのですが遠ざけるわけにはいかないのです

それが隣人といふものです

予備校では狭いベンチにぎゅうぎゅうに詰められて

濡れた膝と腿とがくっつき合ふ

しかし、そこががまんのしどころです

雇用利子および貨幣の一般理論

気持ち悪い、と云ったって運命がそこに在る


国家が国債で、国債が国家だ

先生はウソつきではないが

今では国債と云へば=老人そのものではないでせうか

employment

あゝ、水位がどんどん上がって来る

学校が当てにならなくなったのですね

では出掛けませう


長期金利の低位安定と物価の2%と

あそこに、ネオンライトに、風雨の中で踊っている

雨粒が眼に入る

傘なんてあっても同じだね

濡れたカバンの中には雇用がぎっしり詰まっている

ぼくは必死になってそれを胸に抱えてゐる


倉石智證