「亭主の好きな赤烏帽子」

■久里洋二さん「5月の虹」

越前鯖江の虹なんだそうです。

兎は虹を見てびっくりします

あの足元には何があるんだらう

自分の眼の赤いのなんかそっちのけです

木の切り株なんかものの数ではありりません


亀はずっーと眼を閉じたままです

ここは辛抱のしどころだ

雨降りお月さんは雲の中だ

ものを考えたり哲学したりするにはちゃうどいい塩梅だ

亀はもうずいぶん長いこと何も食べてはいませんが

少しもひもじく感じていません

兎が切り株の向うに消えてゆくのをちらと見はしましたが

ただそれだけのことで

不思議と穏やかで優しい気持ちでいっぱいです


兎が時たま後ろ足でぱたんと地面を蹴ったりして

考え事を邪魔されたりしましたが

今ではそんなことも許してあげやうと思ってます

あゝ、今ごろ兎はどこまで行ったんでせう

虹のたもとまでいったかしらむ


それを考えるとゐても立ってもいられなくなり

思わず目頭が熱くなる

それは兎と亀との激しい友情であって

亀はしみじみと今そのことを考えています

はげしく、

もっと、

はげしく。


倉石智證