「亭主の好きな赤烏帽子」

鰐革のバッグとか

桃色のハイヒールとか

それ自体が金ぴかの未亡人

どこへ行くとでもないが

不思議アンブレラをいくつも持って

行く先々でお天気を占う


塔屋に登る

もうすでに東の空ではなく西の空に

茜色が頬に濡れる

錦なす雲の波間に枯れ色の木が立って

手すりに寄った未亡人はアンブレラを飛ばす

次へとカラフルがいくつも

あゝ、妙な胸騒ぎ


傘だとてあむぶれら

シャボンのやうに空に輝き浮き沈みしながら

涙はとうに枯れ果てたから

せめて明日は天気になぁれ

不思議木の枝に

アンブレラの不思議花が咲き

歌い出す、音階になって


波の雲間は木も、塔屋も深々と埋めて

寄せては返す

ご婦人はついと、桃色のハイヒールを宙へと飛ばす

明日は晴れだ

枝枝のあむぶれらはシーソーのやうになって

次々と回る

あゝ、どこか懐かしい


倉石智證