なにを云ってゐるんダ

ほら、ついさっきそこで生まれたんだ

夜の7:55におぎゃあと生まれた

ついそこで、さっき・・・


お父さんは東京に向かって車を運転してゐる

おかあさんは喜びと不安の中できみを少し抱いた後で

でも、安らぎと義務からの心ゆく解放感で安堵してゆっくりやすんだ

しかし、四月といへば故郷は未だ、名残の桜も

きみを産んだお母さんは脱皮した蛹のやうに白くきれいになって

きみをおくるみに抱えて

桜の花散る道を歩む

ふと、おくるみの中からきみが

砂糖菓子のやうに消えてしまうのではないかと思へるほど

存在の不確かな幸せを感じて

だから時間の中を一歩一歩幸せをかみしめるやうにして

あのころは歩いたものだった


なにを云ってゐるんダ

ほら、ついさっきそこで生まれたんだ

夜の7:55におぎゃあと生まれた

ついそこで、さっき・・・

仕事をしながらよく聞きなさい

31歳になったんだね

つい、さっきそこで生まれた、

夜の7:55に、

ぼくにはよく見えるよ

全世界に告げるやうな明快な合図があった

しかし、どんな赤子だってそこからは

まるで細々とした糸を手繰るやうな運命の希望をたどる


やっと、そこに顔を出したと思ったら

31歳の誕生日の夜に

あれあれ、女の子を泣かして

仕事をしながらよく聞きなさい

愛がどれほど大事なものか

もう少ししないと分からないかもしれないが

生まれたばっかりの赤子のふにゃふにゃの隣に同じきみがゐる

それを、女の子を泣かして

まあ、しょうがない

さうだね、

もし、それでも分からないんだったら

一度失ってみるとか

捨てられてみるとかもいいかもしれない

7:55きみのお誕生日に、まったくねへ

お誕生日にケンカなんかするな


倉石智證