ランプータンと云った時、響きは
甘く、やさしく
南風が吹く
村落の鐘楼に愛は懸かり
胸が高鳴ると
不意にキスの気配が
顔や胸にいっぱいに雨あられと落ちて来て
困惑するほどだがキスは不用意に不意打ちに落ちて来る
安心するのだ
心と体が一瞬のびやかに解放される
未知の闇の中に在って信じることや安心感や、
微かな道しるべを明るみの先に見えたやうな
安堵し、ただ心から笑うのだ
こんな小さな生き物でも命を与えられたことが分かり
乾坤の母との一瞬の永遠を理解する
春暢、
霞立つ丘野辺に牧牛はあちこちし
春潤、生まれたばかりの仔牛に湯気が立ち上り
母牛の長い舌は仔牛をいとおしむやうに舐めつくす
すべてをおおい尽くすやうなやさしさ
なめらかさ
親密さ
ホワイトタイガーに赤ん坊が四匹も生まれた
キスはうまく
おしなべてキスはうまく
こちらは未だ眼の見えない赤ん坊は立ちどころにひっくり返へされ
母トラにお腹を見せる
短い脚をバタバタさせて
かあさんトラは容赦ないキスを浴びせ
キスの気配、舐められて
あゝ、こちらの舌は痛さうだ
ランプータン、と口にすると
すべて甘やかになり
許されたやうな気分の南の風が吹き
ドアがあけられて、入って来る
すべからくすべて母なるものは牝牛のごときものになって
あゝ、相変わらずの原子心母
真新しい牧場の緑の上の白い雲となってもくもくと浮かび
それは山村や海辺の村からも湧き立ち起こり
春の微風が覆い尽くし
村落の鐘楼には未だ愛は懸かり
キスの気配
われわれの不在の後も時空の境界にきっとあり続ける
ぼくはけふ、
たまたま南の国のランフータンを口の中に落とし
それは甘やかな言葉ではなく
本物の果肉で
愛を考えると、はげしくぼくの口中で発酵し続けてゐる
倉石智證