これ、おまいさま

て云ふても

棒のやうに突っ立ったまんまで

くるりくるりと舞ひまする

腰を下げて唐傘を派手に回し

あゝ、うつけて

うつけまうして頭に烏帽子をのせまする


あゝ、おまいさま

て云ふても、わたしのことなど少しも頓着せず

梅や桜の古木の

苔むして

精霊が抜け出て来て

よろぼし

よろよろとお指を突き出し

指し示し

花のあまりに白く堂宇に懸かり


あゝ、こゝなれや。

立ち寄りて拝まんいざ立ち寄りて拝まんとて

散りゆく花の咲き乱れ、咲きつ乱れ

散りつつ花は頤おとがいに瞼にとまる

花冷へは地面の影に映り込み

よろぼし

よろばひて、道を斜めに横に酔ふたごとくに

梅や桜の季節には、よろぼし

蹌踉と、さっと浮かんではさっと消へる

花はいよいよ冷へてきて


さて、おまいさま

て呼びかけても

棒のやうに突っ立ったまんまで

いろいろな襤褸を腰にからげて

見えない眼を春の朧に翳かざ

烏帽子を斜めに

くるりくるりと舞ふばかり


倉石智證

弱法師と

乞丐人(こつがいびと)と

観音菩薩と

花の古木の精霊が道に抜け出て来て、

蹌踉として彷徨ひ、やがて消へゆくことなど。