豚玉を食べたい

モチ玉や、イカ玉ではなく

豚玉を

けふは無性に食べたい


春一番が続き

交差点に立って

少女らは風から身を守るやうに重なって

みんながみんな、目をぐしゅぐしゅ擦っている

そんな少女らが、こんにちは

と云ってお店にやって来る


テーブルを囲んで

やっぱり豚玉を食べたい

豚肉をまず鉄板に軽く炙り

ヘラでかへし、小麦粉のペーストをたらし

まはし

春のキャベツはみずみずとやはらかい

そんな風にして少女らは午後の長い時間を

テーブルを囲んで秘密めいてさんざめく

華奢なお指が鉄板の上をゆき交う


突然、ライラックが通りに芽吹きはじめたから

モクレンが純白の花を開きはじめたから

モーツアルトの諧調が不図聞こえたやうな気がしたから

噴き上げの水が緩やかに放物線を描き

すべてがいよいよ春を告げに来る


豚玉を食べたい

いや、モチ玉もイカ玉も食べたい

授業から解放されて

用事といふほどのこともなく

長い午後を笑ひさんざめき

他愛もない会話を交はし

やがてソースの香ばしい匂いが

辺り一面に立ち込める

ヘラが鉄板に踊り出す

ほうら、、

うまくひっくり返った


倉石智證