蝶がピンで柱に留めてあるといふ
深更の夢か、
明け方の夢か
閉じた眼の糸の端に涙が浮かんでくる
着古したものの袖のほつれか
いずれにしてもそれはユルくてよくないできだ
四苦八苦して
笑いをこらへ
まるで舞台の端に向かって神経質にスキップしてゆく
幕が下ろされると
別な世界になる
とーさんが突っ立ってゐて
書庫にはむつかしい本がどっさりと背表紙を並べ
タオの世界では
夢のなかでわたしが蝶になったのか
蝶が夢みる自分なのか分からない
とーさんの背には裸電球があって
かーさんはどこへ行ったのか
うまくいかない関係が出来てくる
私を苦しめるのだ
さうだよね
と思いきって最初の一ページ目を開いてみる
時季がたって黄ばんだ紙に文字が虫のやうにざわめきだし
さうだ、
私たちはすべて海からやって来たんだと云う
深刻な命題にくり返しくり返し沈黙する
父が裸電球の下に佇み
懐かしくやさしい母が、もんぺ姿の膝を折って
じっと父の脇に正座しておられたのも忘れられない
あれも、蝶が夢みる幻なのか
やがて、麦の生育、ひばりの巣、
などが一番大事になってくる
倉石智證