移動販売車を云ふ
カラフルに塗りたくって
屋根の窓口にはwelcome
路地を横切って猫がゆったりとやって来る
夜が明けたばっかりで
人も車も疲れてゐる
さあ、どこへ帰ろうかと
鍋釜を洗う
青いビニールシートでテントを張って
湯気の向かうのおいらに呼びかけるのだが
恋が成就しなかったら
朝の霞と帰るしかない
本当にぼくの隣にゐたんだ
どこへ行っちまったんだらう
むっちりとした太腿にぼくの手のひらが触れていたはずなのに
うんうんと話しかけたら
うんうんと相槌があったのに
たったワンカップのプルを引っ張りあげた途端に
もう夜の闇の中に消えていってしまっていた
イスラムのこともユダや宗教のことも話さなかったし
心理学や殺人のことも話さなかった
ただ戦争のことや愛や革命のことなどは少し話した
移動販売車を云ふ
けふ、ここに革命が在ると
それからけふの日付のことと
あしたの曜日のことを伝えやうとしただけだ
夜の闇はのっぺらぼうで
なにかそこにうつろにバーカ、と書いてあるやうで
ぼくはいたたまれなくなる
しかし、
“ようこそ”がまさか猫だったなんて
───朝になった
倉石智證