「亭主の好きな赤烏帽子」

■1952浜田知明「初年兵哀歌」副題「ぐにゃぐにゃとした太陽がのぼる」


哀歓がうつろに佇んでゐる

哀歌といふ

哀歓がよじれて襤褸のやうに行進してゆく

これも哀歌と云ふ


初年兵はつらい

すべてに心が大地のやうに罅割れ

こんなに長い蟻のやうな行列なのに

せきとして声はない

太陽がぐにやぐにゃする

実存が本質に先行するのだ


黄色い大陸の太陽が

埃臭く、静かにいつまでも行進の背に圧する

行く先は、

分からない

隊長も、

知らない

だれが命令者なのか、

分からない

名前は、

ない

実存が本質を奪い尽くしてゆくのだ

ひからびててゆく

ゆがんでゆく

うつろになる


「亭主の好きな赤烏帽子」

■1954年作の『初年兵哀歌(歩哨)』で国際版画ビエンナーレ受賞

「初年兵哀歌」シリーズ、戦争の悲哀と不条理を静かに告発している。


銃を杖のように立て、

薄暗い部屋に一人たたずむ

敵を撃つべきはずの銃が

自分を撃つべきはずに

寂として声はない

その時はもう少しだ・・・


私は、スリッパをきちんとそろへて

部屋に入る


倉石

「実存は本質に先行する」

あらゆる軍隊的特質とは、本質の意味を奪いつくすことだ。

行く先は告げられない。

目的は次第に曖昧に溶けてゆく。

存在は記号化され、告発は自己瓦解に。

軍隊、戦争、今でも社会のあらゆるところに埋め込まれ存在する組織原理。

不条理性を静かに告発し続けたのだ。

浜田知明(1917,12/23生まれ)

16歳、(東京美術学校)東京芸大、

1939卒業、入隊、中国山西省方面軍務。

20代のほとんどを軍隊で過ごす。

現在95歳、

矍鑠として現役でおいででいらっしゃると聞く。