あらゆる存在は元素から逃れられないとして・・・
白鳥は悲しからずや
といふとき
青の散乱でうしなはれたスペクタクルが白に届き
白が空に浮かんだ
「ず」は重く、
「や」は詠嘆する
まるで鳥の羽ばたきのうすく消へゆく空の
ゆくりない慨嘆
白と青との心細くも、何処へ行くのか
胸のふくらみにかき抱く
微かな熱さの
空に出て
海の青さにも漂ふ
モーツアルトの悲しびみたいなものがあるが
悲しいモーツアルト、と云ふやうなものはない
ブラームスの空の青さみたいなものがあって
それは少し水色で空に傾斜して
齢をとらなければ分からないんだ
と云われたものだった
それにどうやらに美しい花はあるが、
花の美しさといふやうなものはないとあの人は云って
急に押し黙った
みんなみんな、元素の物語からは逃れられないのだった
水素も結構やるじゃあないか
と、これは水なんだらうか
いろんな気持ちを乗せて隅隅へとゆきわたる
酸素は気性が激しくて
すぐに欲しがったり、ひっついたりする
炭素はどうなのかといふと
こんなに他所の気持ちが分かる仲間はゐなくて
4つの手をいつも快く出してくれる
窒素は地味だがいつもそばにいてくれてなんだか心強い
根っこが笑うんだ
カルシウムは白く
リン酸はヌクレオチドを形づくる
カリウムとNaは細胞の内と外とのエネルギー交換に必要で
あゝ、忘れるところだった
黒板に「下の畑に行っています」よと───
雨ニモ負ケズ
と云ふとき
なんと力強い意思なのか
水金土火木が一挙に寄り添って
元素がひと塊りのやうになって
赤々とした火か青く澄みきった氷のやうになって
すとんと賢治さんの心の中に落ちる
元素に気持ちがあって
元素が寄り集まって
ガス状のモノが空の青
海の青にも染まず
白さは際立つが
パステルの悪戯描きみたいで
いま、辺縁系のあたりに雲と漂う
国家予算は出されたのだが
やっぱり悲しびみたいなものはこれっぽちも沸かず
これも不思議なことだが
駅舎のまへの広場では
他の鳥たちはともかく
この胸のまるい鳩たちは少しも人間を恐れる風もなく
すぐにわたしの足元に寄って来るのだった
倉石智證