モスクワでもあるまいし道があちこちで凍ってゐる
「2.26」でもあるまいし雪が足元にギシギシ云ふ
驚いた、
東京都下に雪が降る
雪が生垣や軒下に寄せられて
おっかなびっくり坂道を上がっていったら
お腹に赤ん坊を結わえて
両手に買い物袋を提げたおかあさんが
のっしのっしと下って来た
吐く息が白い
こんなときは、
角筈を過ぎて、一杯のかけそば
湯気も白く
父は子に逢いたくもなるのだ
おっとつあんが悪かったと
後生大事に財布の隅っこに仕舞っておいた
二人で引いたお御籤を引っ張り出す
30年も会ってゐなけれは
何がどうなっているのかさっぱり分からない
ただ、肉親が肉親を呼び合うのだ
会ってみようと思う
きっと、すぐに泣いてしまうだらうと思ふ
まったく、モスクワでもあるまいし
まったく「2.26」でもあるまいし
街も通りも真っ白だ
足元で雪がギシギシ云ふ
おっかなびっくり坂道を上がっていったら
赤ん坊を腹に結わえたお母さんが
両手に買い物袋を提げてそれこそ、
のっし、のっしと下って来た
母がゆくところはなんでもかんでも雪も溶けてしまう
さうやって30年も母と子で育って来た
かうなると父はからっきし意気地がなくて
お御籤を差し出して
皺を伸ばして見せて
声がひっくり返り───
あゝ、もうすぐやってくる春のように、
穏やかで温かい再会となるといいね
倉石智證