ただいま、と云ったら

ただいま、と云ふ

お帰り、と云ったらお帰り、と云ふ

ただいまと云ってもお帰りがない

お帰り、と云ってもふしぶしにただいまをうかがってゐる

ただいまがそこまで来ていて

ただいまは入れないでゐる

腕が欠けたり

脚が欠けたり

眼が無くなったりして

そもそも、顎が無かったら話もできない


海からの道をとぼとぼと歩いて来る

ただいまと云っても返事がない

ただいまと云ったつもりが聞こえない

ただいまは棒のやうに突っ立ち

せっぱつまってお帰りは

窓と云ふ窓を全部、

玄関のドアを開け広げた


腕を組んで仮設に入ってゆく

あっ、雪だ

今年もとうとうまた雪が降って来た


倉石智證