コーラが抜けた
いや、コーラから気が抜けた
気が抜けたコーラ
ちぇ、まるで砂糖水だ
ねっとりとコーラ色で
まるで何かがそっくり足りない
例のプチプチがない
どうしてかうなったんだ
パンプキン、パンプキン歩いてゆく
渋谷の谷の
宮益坂に向かってスクランブルから空を見上げると
やっぱり気が抜けたコーラだ
プチプチがない
空に炭酸水の
水色の空が流れ
さうあって欲しい
折角のデートだと云ふのに
欅並木の下
待っていてもさっぱり来やしない
楽しみにしていたのに
青山こどもの城が閉館するんだって
仕方がない
左に曲がって青山病院の方にでもいってみるか
パンプキン、パンプキン
あそこではぼくの友達が死んだ
ぼっけもん
ずいぶん前のことになるが
パンプキン
気の抜けたコーラ
空に炭酸水をぶちまけたい
欅並木の上の水色の空に
ところで、青山病院は消へてなくなっていた
このところ、気にすると何かがいつも消へてなくなってゐる
あれも寒い日だった
Fはベッドの上に膝をついて立ちあがろうとしてゐる
看護婦さんが左右から肩を抑えてなだめる
喉にはチューブが穿たれ
気管に詰まった痰を吸引しやうと
Drが枕元のほうにゐて指示をせかす
たちまち大きいビーカーのやうな透明の器の
水が真っ赤に濁って来た
Fはもう尋常ではなく
渾身の力をふりしぼって
そのありさまはもう人間の魂の領域を離れて
獣のやうな声を出す
見開いた眼は焦点もなくどこかを見ていた
すぐに安堵の時が訪れたが
同時に脈拍も血圧もこれまでかという水準に下がってしまった
病院から出ると
空は星空が耿耿としていて
やがて強い風が吹きだした
Fがその日の深更に魂もろとも消へてしまったのは仕方がないとして
宮益から来て左
こどもの城の裏手の
あの病院がすっかり消へてしまってゐるのは
こは、如何に
あの廊下に飾ってあった何か心落ち着く立派な絵たちはどうしたんだらう
Fが消へて、
歩いてゆく先々に何かが消へて
古びた思ひ出や
見覚えのある塀とか、街路樹とか、
様々なものがその位置を変え
私の中でワールwhirl、急に古色蒼然と崩れ去ってゆく
スクランブル
ワール
パンプキンと歩いて
宮益の丘のうへでもう一度コーラを注文する
プチプチがよみがえった
しかし、大の大人がこれではいかんなぁ
炭酸水の水色の空に流れて
少し悲しい
倉石智證